正気でないオタクのsims4

- sims4(PC版)のデフォシムやオリシムを愛でる正気でないプレイヤーの記録的な何か -

[ バチェラー:ベーゼ ] 思わぬ依頼? [ 0日目 ]


ベーゼ編のちょっぴり小説モドキの前日譚です。
冒頭にするには長くなったので「0日目」として独立させました。
アードラー兄弟の何てことない日常」とは時間軸が少し異なり、『オリジナルシム紹介 #01』のヲルがベーゼのボスとして登場します。
(日常の方で出ていませんが、あちらの想定ボスもヲルです。)


※poseもいつもの如く もっく 様 よりお借りしております。
 サイトはこちら ➩ 新生まるきぶねスローライフ



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ウィロークリークの閑静な住宅街にあるデイジー・ボブルの簡素な一軒家には、アードラーという双子の兄弟が住んでいました。


二人の親は亡くなって既に久しく、生きていた時も良い思い出などありません。
ベーゼの右の額からアゴにかけての痕跡が、放置された長さの分だけ痛々しく、負った傷が元になど戻らない事を物語っていました。


幼い頃から弟のゲニーを守るためだけに歪んで育ったベーゼは、その名の通り純粋に「ベーゼ」へと成長していったのです。



ティーンの時分から顔見知りの多い裏社会にボスから誘われるままに属したベーゼは、特段朝に帰ってくることも珍しくありませんでした。


夜遅くに出て行くために小説家を目指すゲニーとはすれ違いの生活を続けながらも、その兄弟仲は何ら変わりません。
歳を経るごとに口にしなくても良いわずかな秘密が増えようが、兄弟の居る家は唯一気の置けないものでした。


この日も朝焼けを背に帰ってきたベーゼは、灯りの点いていない家を見て、てっきりゲニーは眠っているものだと思っていました。



「……おう、起きてたのか」


しかしその予想に反し、明るくなった室内には円いダイニングテーブルに頬づえを突いたゲニーが、何やら考え事をしています。


「んー? うん。夜明け前なのに郵便のお姉さんが「あんたじゃない方に手紙があるから起きろ!」ってチャイムがうるさくってさぁ。お陰で帰ってくるまで起きてたのー」


ゲニーから発された眠そうな声に、『敵』が弟の安眠を邪魔したと理解してベーゼは目を眇めました。


「……またシメるか」
「二次被害の真っ最中だから喧嘩売るのはもうやめてぇ……?」


やらかしかねないベーゼと、それを冗談めかして切実に止めるゲニーは、端から見ればいつも通りです。
ただ乱雑にテーブルに置かれた封筒たちだけが、この今日という日を別のものにしていました。



「っても、俺は請求書以外見たことねェぞ」
「オレもだよ」


狭い交友関係を自覚している二人には、今まで一度もなかった出来事です。
住所を知っているのもその中からさらに一握りに限られているので、ベーゼにも心当たりはありました。


しかし、その後にゲニーから聞かされた内容には流石に当惑が勝ちます。



「これ、宛名しかなくて差出人は不明なんだよね。中には一通一通バラバラに切り取られたメモ用紙が入ってて、それを繋ぎ合わせたらさぁ……『読めたらすぐ「シャトー・ピーク」に来い』って書かいてあんのよ」
「んな暗号みてェなの、この俺にできると思ってンのかァ?」
「悲しいけど正にそれ。しかも、一つだけ鍵が同封されてたんだよね。危険な香りしかしないでしょ? 兄貴の関係者以外あり得ない。けど……郵便物で、って今までなかったよね?」


やけに真剣なゲニーに気圧されて、ベーゼは頭を使うなら《ボス》だと仮定しながら、連絡手段を普段より使わない頭を捻って逡巡し、ゲニーの対面の椅子へと座りました。


最近あったことで言うなれば、出張中の『非通知での2コール』や事務所内での『留守役からの決まった合図』など、近しい者しか知り得ない二つだけです。
溺愛する嫁の一挙手一投足に神経をとがらせているあのボスが、こんな形で跡を残すのを好むとは思えず、ベーゼは妙な引っかかりを覚えました。



「証拠は残さねェ主義だから手紙ソレで来んのは……まぁ、初めてだなァ?」
「うーん、怪しいし……メモは燃やして、鍵は折って粗大ゴミ、かな。今まで家に直接って事はなかったんだし、オレはリスクが高いから行くのは正直言うと反対だ。これはどっからどう見ても辞めといた方が良い」


いぶかしがるゲニーをよそに、しかし気にした風もなくベーゼは口の端を上げています。



「なに言ってンだァ? 「来い」っつーなら、行くしかねェだろ」


相も変わらず素直すぎるベーゼに、ゲニーは頭を抱えました。


「単純明快だねぇ、兄貴ったら。オレが心配してる理由もよく分かってないんでしょ」
「心配事は犬も食わねェんだろ?」
「それ夫婦喧嘩の事だねぇ???」


雑に投げた会話をこれ以上は無駄だと打ち切って、ベーゼが席を立ちました。



「んじゃ、まァ行ってくるわ」


ベーゼはゲニーが巻き込まれなければ考えを改めることは一切なく、いつも困惑するぐらいにかたくなです。一度決めると聞かないことを知っているだけに、ゲニーも引き止めずそのまま見送りました。


「……はいはい、良いお土産待ってるよ」



ベーゼが完全に去った後、無意識に肩へ力を入れていたらしいゲニーがそっと緊張を緩め、放置されたままの手紙の中から自身──ゲニー宛ての一通を取り出してテーブルの上に広げました。



「……オレにも届いてたのは言った方が良かったかな? しかも中身が相手空欄の結婚式の招待状に、《出場者》って書かれた7枚の写真と、その個人の情報 etc...」


ベーゼの断片的な話を聞く限りでは、差出人は辿られてはいけない上の立場。さらに簡単な謎解きはゲニーの存在を知っていて寄越したに違いはなく、ベーゼの身辺とひた隠した夢を理解している数少ない相手。


大切な兄弟を悪の道へと引き入れた、ベーゼが《ボス》と呼ぶそのシムが有力だとゲニーは結論づけました。


「うーん……嫌がらせにしては、いやに親切な点が変なんだよねぇ」


見かけによらず部下思いのようだと独りごち、勝手に順序立てた仮説を想像してはボスへの生暖かい視線と、当分の間は気付かないであろうベーゼの鈍さにため息がどんどん深くなって行くのでした。





セレブのみが住まうはずのシャトー・ピークには以前建っていた豪華な邸宅はなく、代わりに幾らかこぢんまりとしたモノクロでモダンな建築物が澄ましたように居座っていました。



前にここの土地を所有していた者の不始末を咎めるために訪れた時とは様変わりしたその外観に、ボスが嫁のために建てたヴァキュアス・グリーンの家と心なしか似ていることに気付き、ベーゼは玄関へと足を早めます。



ソファに座る真っ黒な背中を見てやっと確信できたベーゼは、一瞬ちらついた悪い想像を投げ捨てほっと胸を撫で下ろしました。
重要な案件なのか、ボス以外に気配はありません。


三日前にボスの別邸で振る舞われたご馳走を食べたきりで、呼び出された理由は一ミリも分かりませんが、ベーゼにとって敵対組織でないだけマシでした。



「なんであんな変なの送って来たンだ? ゲニーがいねェと、一生ここに来なかった自信しかねェよ」


気が抜けてすっかり砕けた態度になったベーゼは、常より裏社会の一角として畏れられるボスの前であろうと気にしません。



「ひさびさに厄介ごとかァ?」


気安く斜め向かいに腰を下ろしたベーゼを視界に写さずに、ボスは手遊びして黙ったままでした。



「……ウチの無鉄砲な奴って言えばお前ぐらいだろ」


やがてボスが気怠るそうに口を開いたものの、要領を得ない発言にベーゼも首を傾げます。


「ほめられた気がしねェな」
「褒めてないからな」


軽口にも冷めた返しのボスは口数が少なく無表情が標準装備なのは変わりませんが、ベーゼの目には困っているように見えました。
何年もボスには世話になっているだけに、嫁絡みの時にのみ見せる歯切れの悪さが目立ちます。



「わざわざ忙しいボスからの呼び出しが、ただの世間話ってワケじゃねェんだろ? ボスっつーより、嫁さんからの何かかァ?」


誰彼なしに噛みつく考えなしの癖に変なところで察しの良いベーゼは、核心を突く時も歯に衣着せぬ物言いで敵は多く、そこをボスが気に入っているだけに同僚の一部からも疎まれていました。


「用がないンなら帰るわ」


一向に本題を言わないボスに痺れを切らし、ベーゼがためらいなく帰ろうと席を立ちます。



「……向こう見ずなお前に、危篤な輩からの依頼だ」


堪え性のないベーゼにこれ以上は面倒だと、ボスは重い口を開くことにしました。



依頼ならばベーゼも満更ではなく、さっきの態度とは打って変わって上機嫌に隣に座り、鈍った身体を動かせる期待に満ちた表情になりました。


「で、誰に何すりゃいいンだ?」


単純なベーゼに頭の痛くなるボスでしたが、引き止めた以上は告げなくてはなりません。



「お前にはこの家で19日間、バチェラーをやって貰う。拒否権はない。相手は見繕っておいた……精々、お前の好きにやれ」


「…………は?」


唐突で端的な命令に開いた口が塞がらず、予想もしなかった依頼にベーゼから乾いた笑いが漏れました。



(俺がバチェラー? 拒否権なし? 好きにやれ???)


全ての用件を言い終え立ち去ろうとしたボスが、形式上の承諾を聞いていないことを思い出し足を止めました。


「返事は今日中だ。嫌なら別に構わないが……お前の弟がどうなっても良いならな」


ボスからのダメ押しの脅しに、ベーゼの肩が揺れました。



扉が閉まった後も思案に暮れていましたが、何よりもゲニーを人質とされた以上はベーゼにも断る理由はありません。


「バチェラーって、あれだよな? バラがどうのってヤツ。いや、俺はあんな金持ちってワケじゃねェのに……ボスは何がしたいンだ?」


色恋沙汰とは無縁で生きてきたベーゼには眩しく、関係のない世界だと割り切っていただけに、依頼だからこそなのか現実味が感じられません。



しばらく放心していたベーゼからボスが返事を受けたのは、午後に差し掛かるちょうど1分前の出来事でした。



※チャレンジ本編へと続く。



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はい。非情なボス(の嫁)からの、誰にでも噛みつく狂犬ベーゼも「大切な伴侶が出来れば丸くなるでしょ理論」のお節介(笑)です。
添削に添削を重ねて日にちが空いてしまい申し訳ありませんでした。
(出場者募集締め切り五日前が目標だったのにギリギリに…)


ここまでお読みいただきありがとうございました!


また本編のために更新が空いてしまいますが、しばしお待ち下さいませ…!



以下、ボスの超短い裏話です。


・飼い主の思惑



「……そんなに分かり易かったのか?」


急遽バチェラーの開催地として建て替えた別邸から出たヲルは、仕事での容赦のなさから「血が通っていない」など噂され畏怖されてはいますが、嫁のユラに関する事柄に限りポンコツになることを自覚していました。


今回も鬱陶しいほど懐いた飼い犬に何か飴でも、と思い調べてみれば願望が『運命の相手ソウルメイト』だと小耳に挟んだヲルは迷わずユラへと相談をしました。
あの狂犬からは思いもよらない夢に、ユラから嬉々として提案されたのが依頼と称してベーゼに突き付けた「バチェラー」という一対他数で行う合宿のようなお見合いです。


騙した形にはなりますが、ベーゼの素性を隠し募集をすれば意外にも相手が集まり、中には同業の者もいました。


実益も含んだ催しに、主人であるヲルは踏み切ることにしたのです。


飼い犬のささやかな夢と、嫁の希望を叶えるために。


end.