正気でないオタクのsims4

- sims4(PC版)のデフォシムやオリシムを愛でる正気でないプレイヤーの記録的な何か -

[ バチェラー:忍 ] 運命なんて信じない [ 0日目 ]


忍編の小説もどきの前日譚です。
生まれながらにして何不自由のない忍ですが、ベーゼとはまた違うベクトルで心に闇を抱えています。
あんまりにも暗くなりそうだったので、西郷という実家の執事の登場で明るくして貰いました。


地味にバチェラーの執事として来て貰うフラートも関わっていたりいなかったり。
ただ、件の相手はオリシムの【ナルシア・エメリー】とは血縁関係(実姉)はありますが忍と何ら関係ないのでそこだけはご了承いただけますと幸いです。


※使用させていただいたposeもいつもの如く もっく 様 よりお借りしております。
 サイトはこちら ➩ 新生まるきぶねスローライフ



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ベーゼの結婚式を見届けた後、忍はブリンドルトンベイにある実家に一時だけ戻ってきた。


今は午後3時過ぎで、芸術家のパトロンである父とベストセラー作家の母が仕事でいない時間だ。
「何しに戻ってきたのか」と好奇心で問い質されるされるのも面倒だと思っていた忍には丁度良い時間帯だった。



変わり映えのない玄関をくぐり、目的の人物がいるであろうダイニングへと足を進める。
一瞬、扉を開けてどんな顔をすればいいのかを考えて、息を吐いた。



「──西郷、元気だった? ネリーも」


忍が声をかければ執事の西郷は慌てて振り返り、初めて知り合う者には少々驚かれる程に厳めしい見た目ではあるが、その口元は優しさを滲ませ幾らか緩んでいる。


「あぁ、坊ちゃん! お久しぶりでございます。お帰りなさいませ」


忍が生まれた時から慣れ親しんだ西郷だが、悪友とのシェアハウスで家を出てここ一年ほど会っていなかった嬉しさからか、貼り付けた笑顔を不審に思われる事はなかった。



「私もお嬢も、とても元気ですよ」


忍の気配を察して、トントンと小気味の良い足音を鳴らして愛猫であるネリーが駆け寄って来る。



「ほら、この通り」


西郷の取り出したおもちゃで遊ぼうとするネリーを見て、忍はささくれ立った気持ちが少しだけ和らいだ気がした。



「それで、坊ちゃんは今日どうされたのですか? 連絡もなしに来られるなんて、お2人が会えなかったと悲しまれます」


両親がいない時間を狙って来た忍だったが、西郷から指摘されて少し顔を歪ませた。



「……おばあ様から、またお見合いだとかで写真が届いただろう? これから突き返しに行くために、少し寄っただけだよ」



「あぁ」と合点がいったのか、ネリーと遊びだした忍を横目に西郷が頷く。
しばらくそのままだったがネリーの気が済んだのか、毛繕いをした所で忍はその手を止めた。



「あんな物に、もう振り回されるのはうんざりだ。例えおばあ様であろうとも、抗議はさせて貰うよ」



諦観が見て取れる忍のその姿に、あれをまだ引き摺っているのだと西郷は悲しくなった。


「……坊ちゃん。独り身の私が言うのも何ですが、必ず坊ちゃんを心から愛してくれる相手が現れます。ですから……あの許嫁だった方の事はもう、忘れられたら如何ですか?」



西郷の言う通り、忍は過去に許嫁がいた。
それは、家柄などで忍の意思も関係なく交わされた、良家同士を結びつけるためのものだった。


「時代に逆行している」だとか普段考えなしで陽気な弟は怒ったが、父方の祖母の顔を立てるためにと忍は了承したのだ。



少し幼い考えを持っていた彼女ではあったが、ゆくゆくは結婚するのであろうと大切にしていた。


実に5年もの間、幼少期や多感なティーンの時期も含めて彼女を一番に据えた生活が回る。
気分がコロコロと変わる彼女が「恋人のように振る舞って」と言えばその通りにしたし、時間も関係なく「会いたい」と言われれば夜中でも気が済むまで付き合った。


そんな二人に周りも決まったものだと信じて疑わず、また忍自身も信じていたのだ。



彼女が、何時まで経っても仲睦まじい忍の両親のような──運命の相手かも知れないと。



しかし、彼女はそれを簡単に裏切って忍の元から去っていった。
相手は知れないが、段々と彼女からの連絡が減ってきた頃に頻繁に遊び人が傍にいたと耳にしている。



「メルね、もうあきちゃった! お家にね、「忍君といるとつまんないからやめる」って、もう言ってあるの。……だからね、バイバイ」



忍が注ぎ続けた愛情の見返りとしては余りにもあっさりとした別れの言葉に、当時は何も言う事ができなかった。
悔しいとも、悲しいとも吐き出せずに時間だけが経って、未だに忍の心を苛んでいる。



以来、忍は自身が選んだ訳ではない『運命』などという抽象的で、長い目で見れば一瞬の勘違いに過ぎないものを信じてはいない。



ベーゼの結婚式を眺めながらイヴィーが言ったあの言葉は、今の忍が素直に受け入れるにはとても難しかった。
ベーゼが伴侶と並び涙を流す姿にそうであれば良いとは思ったが、結婚はできるとしても忍には当てはまらないような気がしていたのだ。



「……どうだろうね。もう顔も思い出せないけれど、そう見えるかい?」


目を閉じて感情を読み取らせない忍に、生まれた時から知っている西郷でなければ気付けない深い悲しみがあった。



「坊ちゃんにとって時間が解決になるのかは分かりませんが、私は……忍様の幸せを、何時も願っておりますよ」


しんみりとした空気に面映くなった忍は一つ咳払いをして、西郷にだけはやはり告げる事にした。



「明日からバチェラーというものを開催するんだ。また後日、西郷を家族としてパーティーに招待するよ。来てくれるかな?」


聞き慣れない単語ではあった西郷だが、忍からの頼みであればと快諾する。
弟の燿や悪友たちには内緒にしているので、家族として参加して貰う相手は西郷しかいないと考えていた忍は、その返事に胸を撫で下ろした。



「……それじゃあ、また」


ネリーを抱き抱えたまま、西郷は忍を見送ろうとした。
しかし忍は扉の前で立ち止まり、振り返りもせずにわかに宣言する。



「次にここに戻って来る時は──2人だよ」



その意味をよくよく理解して、西郷はネリーを撫でながら微笑んだ。


「えぇ、行ってらっしゃいませ」


運命であろうとなかろうと、忍が決めた相手ならば間違いはないのだと西郷は心から信じている。



もう明日に迫る催しに、忍は少しばかりの期待をもって臨むのだった。



※チャレンジ本編へと続く。



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陰鬱としないようにマイルドに表現を替えたのですが大丈夫でしょうか…?
例の元許嫁は熱を上げた遊び人に同じように軽く捨てられるわ、ただの一時的な癇癪だと思っていた家族からは非難轟々で縁を切られて「ざまぁ」されていますのでご安心を。


ベーゼの最終回のおまけ話では、ベーゼと自身の幸せを願いましたが「運命の相手はいない」と諦めてしまっている忍。
チャレンジで最終的に誰が選ばれ、始まる前の忍からすれば一度裏切られ絵空事のように感じる『運命』がどのように変わるのか?
それらも含めて書き切っていけたらなと思います。


お読みいただきありがとうございました。


本編更新は3月30日に間に合わせる予定となりますので、もう少々お待ち下さいませ!!!


※1日目を更新しました!!!